MIDIとは何だったのか? ― ゲーム音楽と演奏データの革命(言いすぎかな)
MIDIはなぜゲーム音楽で流行ったのでしょうか。小さな演奏データ、外部MIDI音源、GM・GS・XG、そして日本のPCゲームでの実例から、MIDIがゲーム音楽の一時代を築いた理由をたどります。
MIDIとは何だったのか?
― ゲーム音楽と演奏データの革命
ゲーム音源の歴史シリーズゲームの音はどう作られていた? ― 専用回路・PSG・FM音源の時代MIDIとは何だったのか? ― ゲーム音楽と演奏データの革命 ← 今ここMIDIはなぜゲームから消えた? ― PCM・ストリーミングと現代ゲームサウンド
前回までの振り返り
前回は、ゲームの音が専用の音響回路 → 波形メモリ音源 → PSG → FM音源へと発展していく流れを見てきました。
昔のゲームは、現在のように完成した音楽ファイルをそのまま再生していたわけではありません。ゲーム機や基板に搭載された音源へ、
「この音程を、この音色で、このタイミングで鳴らす」
と指示し、実際の音はその場で作っていました。
この仕組みが発展していくと、次第に、
何を、いつ鳴らすかという「演奏情報」
その指示を受けて実際の音を作る「音源」
を分けて考えられるようになります。
一方、1980年代の電子楽器の世界では、メーカーの違うシンセサイザーやシーケンサー同士でも、共通の方法で演奏情報をやり取りしたいという要求が高まっていました。
そこで1983年に登場したのが MIDI(Musical Instrument Digital Interface) です。
MIDIはゲームのために作られた規格ではありません。
しかし、
- データが非常に小さい
- 長い曲を扱いやすい
- ループさせやすい
- 演奏内容をリアルタイムに制御できる
- 外部の高性能な音源を利用できる
という特徴は、当時のゲームと非常に相性がよいものでした。
今回は細かなMIDI規格そのものを覚えることが目的ではありません。
MIDIがなぜゲーム音楽で広まり、どんな楽しみ方を生み、なぜ一時代を築いたのか。
そこを中心に見ていきます。
なぜゲームにMIDIが向いていたのか
1980年代から1990年代前半のゲームでは、ROMやディスク、RAMの容量は現在とは比べものにならないほど限られていました。
もし数分間のBGMを「完成した録音音声」として保存するなら、曲の最初から最後まで大量の波形データを持たなければなりません。
一方MIDIでは、音そのものではなく、主に、
- どの音を鳴らすか
- いつ鳴らすか
- どのくらいの強さで鳴らすか
- どの楽器で鳴らすか
- いつ音を止めるか
といった演奏情報だけを扱います。
完成した録音音楽
波形 波形 波形 波形 波形 波形 波形……
曲の最初から最後まで「音」そのものを保存
MIDI/シーケンス
音程
音の長さ
強さ
音色
タイミング
制御情報
演奏データは、録音済み音声に比べてずっと小さくできます。
しかもゲームBGMでは、同じ曲を繰り返すことがよくあります。演奏データなら、曲の終わりで先頭へ戻せばよい。ゲームの状態に合わせてテンポや音色、演奏内容を変えることもできます。
こうした特徴は、単に「MIDIというデータ形式が小さかった」から生まれたものではありません。
実際に音を作る音源ハードウェアと、「何を、いつ、どう鳴らすか」という演奏データを分離したことが重要でした。
音そのものは音源側に任せ、ゲーム側には演奏に必要な情報だけを持たせる。だから、大量の波形データを保存せずに長い曲を演奏でき、同じデータを繰り返したり、ゲームの状態に応じて演奏を変えたりできたのです。
小さい。長く鳴らせる。繰り返せる。制御しやすい。
これは、音源ハードウェアと演奏データを分離するという考え方がもたらした大きな利点であり、容量の厳しかった当時のゲームにとって、とても都合のよい性質でした。
この考え方自体は、ゲーム独自のシーケンス方式にも見られます。そしてMIDIは、この「演奏情報と音源を分ける」という考え方を、メーカーの異なる機器どうしでも扱える共通規格として広げました。
MIDIって、結局何なの?
ここで一度だけ、MIDIそのものを整理しておきましょう。
MIDIは音声データではありません。
MIDI AssociationのMIDI 1.0仕様では、音符、音色変更、表現制御などの情報を、異なる電子楽器や機器の間でやり取りするための仕様として定められています。
例えばMIDIでは、
- Note On:この音を鳴らす
- Note Off:この音を止める
- Note Number:どの高さの音か
- Velocity:どのくらいの強さで鳴らすか
- Program Change:どの楽器・音色を使うか
- Control Change:音量、パン、モジュレーションなどを制御する
- Pitch Bend:演奏中に音程を滑らかに変化させる
といった情報を送ります。
考え方としては、楽譜と楽器を分けるのに近いでしょう。
MIDIによる演奏指示
「ピアノで」
「ドの音を」
「この強さで」
「ここで鳴らす」
↓
MIDI音源
↓
実際の音
MIDIケーブルの中を、ピアノの録音音声が流れているわけではありません。
流れているのは、どう演奏するかという指示です。
当時使われた主な外部MIDI音源
当時のPCゲームでは、設定画面や取扱説明書に、対応するMIDI音源の機種名がそのまま書かれていることがありました。
ここから先によく登場する、主な外部MIDI音源を先に整理しておきましょう。
| 登場年 | 外部MIDI音源 | 音源方式・規格 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 1987 | MT-32 (Roland) |
LA音源 | LA方式を採用した マルチティンバー音源 モジュール。 GM登場前のPCゲームで、 対応音源として広く使われた ※10 |
| 1989 | CM-32L (Roland) |
LA音源 | パソコンでの利用を意識した CMシリーズの音源。 MT-32系の再生環境として、 ゲームでも利用された ※10 |
| 1991 | SC-55 Sound Canvas (Roland) |
GM / GS、PCM系音源 | GSフォーマット第1号機。 Sound Canvasシリーズの 出発点となった ※11 |
| 1994 | SC-88 Sound Canvas (Roland) |
GM / GS、PCM系音源 | SC-55の後継機。 音色数や同時発音数が 拡張された ※11 |
| 1994 | MU80 (Yamaha) |
XG、AWM2音源 | XGを搭載した最初の マルチティンバー音源。 32パート・64音同時発音に 対応した ※12 |
同じ「外部MIDI音源」でも、MT-32 / CM-32LとSC-55では、音源方式や前提とする音色構成が異なります。
そのためゲーム側も、単に「MIDI対応」とするだけではなく、どの音源向けの演奏データなのかを指定する必要がありました。
じゃあ「MIDIファイル」って何?
パソコンを長く使っている人なら、.mid というファイルを見たことがあるかもしれません。
一般にはこれを「MIDIファイル」と呼びますが、少しだけ正確に言うと、多くの .mid ファイルは SMF(Standard MIDI File) という形式です。
MIDI AssociationのSMF仕様では、MIDIの演奏情報を時間情報と一緒にファイルとして保存する方法が定められています。
難しく考える必要はありません。
MIDI
演奏情報をやり取りするための決まり
↓
SMF(.mid)
その演奏情報を「曲」として保存したファイル
↓
MIDI音源
ファイルの指示を受けて実際の音を作る
つまり、普段「MIDIファイル」と呼んでいるものは、MIDIの演奏情報を記録したファイルです。
MIDIは本来、機器どうしが演奏情報をリアルタイムにやり取りするための規格です。一方のSMFは、その演奏情報を時間情報とともに保存するためのファイル形式です。
SMFには、音符だけでなく、複数のトラック、テンポ、拍子、曲名なども記録できます。ただし、ここにも録音された音声そのものが入っているわけではありません。
ここが分かると、次の現象も理解しやすくなります。
PCゲームは「どんな音源を持っているか」で音が変わった
ここで、当時のPCゲーム側の事情も少し見ておきましょう。
現在のPCでは、ゲームを起動すれば基本的に音が鳴ります。しかし当時のPCでは、すべてのユーザーが同じサウンド環境を持っているとは限りませんでした。
FM音源ボードを持っている人もいれば、外部MIDI音源を接続している人もいる。逆に、PC本体に必ず用意されているBEEP音くらいしか使えない環境もありました。
例えば1990年のPC-9801版『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』では、FM音源ボードがあればFM3音+SSG3音でBGMを演奏しますが、FM音源ボードがない環境では、本体のBEEP音でBGMを演奏することもできました。※8
今から見ると、単純なBEEP音でRPGのBGMを成立させようという、なかなかの力技です。
さらに同じ英雄伝説シリーズでも、1996年のPC-9801版『英雄伝説IV 朱紅い雫』では、MIDI、FM音源、BEEPという複数の再生環境が用意されていました。※9

つまり当時のPCゲームでは、
BEEPでも何とか鳴らす → FM音源ならもっと豊かに鳴る → MIDI音源があればさらに豪華に鳴る
というように、ユーザーが持っているハードウェアによって、同じ「ゲーム音楽」という体験にかなり大きな差がありました。
MIDIは、こうした**「音を作るハードウェアをユーザー側で選べるPC文化」**の中で、とても魅力的な選択肢になっていったのです。
ただし、この柔軟さは「どのMIDI音源でも必ず同じように鳴る」という意味ではありません。音源の世代や互換性によって、音色や一部パートの鳴り方が変わることもありました。
同じMIDIなのに、音が違う
同じ .mid ファイルを別のパソコンや別のMIDI音源で鳴らすと、音がかなり違うことがあります。
理由は単純です。
ファイルの中に完成した音が入っていないからです。
同じ演奏データ
│
├─→ 音源A → 音A
│
├─→ 音源B → 音B
│
└─→ 音源C → 音C
例えば「ピアノでこの音を鳴らす」という指示は同じでも、
- どんなピアノ音を持っているか
- どのような方法で音色を作るか
- 同時に何音鳴らせるか
- リバーブやコーラスをどう処理するか
は、MIDI音源によって違います。
そして、この違いは当時のゲームユーザーにとって欠点だけではありませんでした。
むしろ、大きな楽しみの一つになります。
音源を買い替えると、同じゲームのBGMまで豪華になった
安価な音源しか持っていなくても、ゲームは遊べます。
でも、より高性能なMIDI音源を購入すると、ゲームそのものは同じなのに、BGMがぐっと豪華になることがありました。
現在のPCゲームで、グラフィックボードを強化すると映像が豪華になる感覚に少し似ています。
音源をアップグレードすると、ゲームの「音」もアップグレードされる。
そんな楽しみ方ができた時代です。
1987年にはRolandのMT-32が登場しました。
さらに1991年にはSC-55 Sound Canvasが登場し、Sound CanvasシリーズはPCのDTMやゲームでもよく知られる存在になります。
Yamahaからも、後にMUシリーズなどのMIDI音源が登場しました。
1990年代のPCゲームでは、ゲームの設定画面に、
FM音源
MT-32
SC-55
General MIDI
...
といった選択肢が並び、ユーザーが自分の持っている音源を選ぶことも珍しくありませんでした。
ゲームのBGMをよりよい音で聞くために、外部MIDI音源を買う。
これも当時のPCゲーム文化の一部だったのです。
でも、音源によって音が変わりすぎるのは困る
ユーザー側から見れば楽しい「音源による違い」ですが、ゲームメーカーから見ると問題もあります。
作曲者が、
「ここでは、このピアノとストリングスを、このバランスで聞いてほしい」
と思っていても、ユーザーの持っているMIDI音源が違えば、同じようには鳴らないことがあります。
- ピアノの音色が違う
- 音量バランスが違う
- エフェクトが違う
- 同時発音数が違う
- 同じ音色番号でも想定した楽器が出ない
しかも問題は「音質が違う」だけではありません。
ゲーム側で選んだMIDI音源と、実際につながっている音源や設定が合っていなければ、BGMが鳴らない、一部のパートが聞こえない、まるで違う楽器で演奏されるといったことも起こりえます。
「ゲームは動いている。でもBGMが鳴らないと、なんかゲームとして成り立ってないな……」
という状態になることもありました。
当時は、MIDIインターフェースの接続、使用する音源の選択、音源側のモードや初期化などまで含めて、ユーザーがサウンド環境を整える必要があったのです。
これでは、せっかく曲を作っても再生結果を揃えにくい。
いろいろな音源で鳴らせる柔軟さ
と
どの環境でも同じ音になるとは限らない不確実さ
は、MIDIの表裏一体の特徴でした。
そこでGeneral MIDIが登場する
この問題を減らすために整備されたのが General MIDI(GM) です。
MIDI AssociationのGeneral MIDI資料では、異なるGM対応機器でも、共通の音色セットや基本的な演奏環境を使えるようにするための規格として説明されています。
例えば、
- 楽器音色の並びを共通化する
- ドラム音の割り当てを共通化する
- 16 MIDIチャンネルを前提にする
- チャンネル10をリズムに使う
といったルールがあります。
これによって、少なくとも、
「ピアノを指定したのに、別の音源では全然違う楽器が鳴る」
といった問題を減らすことができます。
ただしGMは、すべての音源を同じ音にする規格ではありません。
「ピアノを鳴らす」という役割は揃っても、そのピアノ自体の音質や雰囲気は音源ごとに違います。
GMからGS・XGへ
MIDI音源が高性能になると、GMの基本的な共通仕様だけでは足りない表現も増えていきました。
そこで各社は、GMとの互換性を意識しながら独自の拡張を行います。
Roland GS
RolandのGSは、GMをベースに音色や制御機能を拡張した仕様です。
Rolandの社史では、1991年のSC-55 Sound CanvasをGSフォーマット第1号機としています。
Sound Canvasシリーズは、SC-55からSC-88、SC-88Proなどへ発展し、音色数や同時発音数も増えていきました。
Yamaha XG
Yamahaは1994年にXGフォーマットを発表しました。
YamahaのMUシリーズ史によれば、XGはGMを拡張し、音色だけでなくエフェクトなどの詳細なパラメータまで含めて、より豊かな表現を狙った仕様です。
最初のXG対応音源がMU80でした。
KORGなどのGM対応音源
KORGなどからもGM対応のMIDI音源が販売されました。
例えばKORG 05R/Wでは、KORG独自のAI²音源を使いながら、GMデータを再生できます。※13
ここで大切なのは、
GM・GS・XGは、MIDIを使って演奏するときの互換性や表現を広げるための規格
であり、
LA音源、PCM音源、AI²などは、実際にどうやって音を作るかという音源方式
だということです。
「MIDIの種類」と「音を作る方式」は、同じ分類ではありません。
MIDI規格の上に、いろいろな音源が乗っていた
ここまでの関係を整理すると、MIDI、SMF、GM・GS・XG、音源方式は、それぞれ別の役割を持っていることが分かります。
| 分類 | 主な例 | 何を決めるものか |
|---|---|---|
| 演奏情報の通信規格 | MIDI | 音符や音色変更などの演奏情報を、機器間でどう伝えるか |
| 演奏情報のファイル形式 | SMF(.mid) |
MIDIの演奏情報を、時間情報とともにどう保存するか |
| 互換性・拡張仕様 | GM / GS / XG | 音色の並びや制御方法などを、音源間でどうそろえるか |
| 実際の音源方式 | LA / PCM / AWM2 / AI² | 音源が実際の音をどのような方式で作るか |
例えば、機種と音源方式・規格の関係は次のようになります。
Roland MT-32 / CM-32L → LA音源
Roland SCシリーズ → PCM系音源 + GS
Yamaha MUシリーズ → AWM2音源 + XG
KORG 05R/W → AI²音源 + GM
このように、曲の演奏情報と、実際に音を作る装置は別々に発展できました。
より高性能な音源へ交換すれば、同じ演奏データをさらに豊かな音で聞けます。しかし同時に、制作者がすべてのユーザーへ同じ音を保証しにくいという問題も生まれました。
日本のゲームでは、どんなMIDI音源が使われたのか
では実際に、日本のゲームではMIDI音源がどのように使われていたのでしょうか。
ここでは、当時の流れが分かりやすい作品を中心に、代表例を挙げます。網羅表ではありません。
また「対応」といっても、
- 特定の外部MIDI音源を選択できる
- 特定規格向けのデータを持つ
- MIDI版を制作上の基準としている
など、作品によって意味は異なります。
表の最初に挙げる2作品はX68000用です。そこで、その前提となるX68000のMIDI環境を先に確認しておきましょう。
X68000では、外部MIDI音源の接続が前提だった
X68000は、FM音源とADPCM音源を本体に内蔵していましたが、MIDI音源は内蔵していませんでした。
そのため、X68000でMIDI対応をうたうゲームは、MIDIインターフェースを介してMT-32やSC-55などの外部MIDI音源を接続して鳴らすのが基本でした。
X68000版『出たな!!ツインビー』も、その一例です。MT-32 / SC-55などの外部MIDI音源に対応し、ユーザーは所有する音源に合わせてBGMの再生環境を選べました。※1
| 年 | ゲーム・開発元 | 機種 | 音源・規格 | 対応内容 |
|---|---|---|---|---|
| 1991 | 『出たな!!ツインビー』 (KONAMI) |
X68000 | MT-32 / SC-55 | MT-32 / SC-55を 外部接続して利用 ※1 |
| 1992 | 『グラディウスII -GOFERの野望-』 (KONAMI) |
X68000 | MT-32 / SC-55 | FM版、SC-55[MIDI]版、 MT-32[MIDI]+FM音源 ミックス版が存在 ※2 |
| 1996 | 『英雄伝説IV 朱紅い雫』 (日本ファルコム) |
PC-98 | MIDI / FM / BEEP / SC-88系 |
MIDI・FM音源・BEEPに対応。 オリジナルMIDI音源を発展させた 『MIDIスペシャル』や、 SC-88版MIDIデータ集も展開 ※3・※4・※9 |
| 1996 | 『雫』 (Leaf) |
PC-98 | MIDI / GS系 | 起動時にMIDI音源・FM音源・ 音源なしを選択。 SC-55 / SC-88系GS音源を推奨し、 まずMIDIで曲を仕上げてから FM音源版へ落としたとの証言がある ※5 |
| 1996 | 『痕』 (Leaf) |
PC-98 | MIDI / GS系 | 『雫』と同じLeafのPC-98期に、 MIDI版とFM音源版を併用した 代表例 ※5 |
| 1998 | 『Final Fantasy VII』 Windows版 (Square) |
Windows | General MIDI / Yamaha XG |
XG MIDI Dataを選択でき、 XG対応サウンドカードに対応。 Yamaha S-YXG70も ゲームCDから導入できた ※6・※7 |
こうして見ると、MIDI対応は単なる「BGMのファイル形式」の問題ではなかったことが分かります。
『出たな!!ツインビー』や『グラディウスII』では、ユーザーが所有する外部MIDI音源そのものをゲームのサウンド環境として選択していました。
Embedded iFrame映像:X68000実機で動作する『グラディウスII -GOFERの野望-』。投稿者がX68000実機でのキャプチャテストとして公開している映像を、YouTubeの埋め込み機能で掲載しています。動画から静止画を抜き出して転載しているものではありません。なお、X68000版にFM音源版、SC-55[MIDI]版、MT-32[MIDI]+FM音源ミックス版が存在したことの根拠は、この動画ではなくD4エンタープライズの公式資料(※2)によります。『グラディウスII -GOFERの野望-』© KONAMI
LeafのPC-98作品では、後年の取材で、まずMIDI版を完成させ、その後FM音源向けへ落とし込むという制作工程だったことも語られています。

つまりMIDIは、単なる豪華版として後から付け足すものではなく、作曲時の基準環境になる場合もありました。
そして1998年のWindows版『Final Fantasy VII』では、XG MIDI Dataが用意され、YamahaのXG対応環境がゲーム側から明確に意識されています。
ハードウェアMIDI音源だけでなく、S-YXG70のようなソフトウェアシンセサイザーも使われるようになり、MIDI音源のあり方そのものも変わり始めていました。
1990年代には、
どのMIDI音源でゲームを鳴らすかをユーザーが選ぶ
こと自体が、PCゲームのサウンド環境の一部だったのです。
そして、ゲームやその環境をそろえたいというコレクター心や、購入心、所有欲のようなものまで満たしてくれる、夢のある世界でもありました。
「このゲームなら、この音源で鳴らしてみたい」「せっかくなら、もう少しいい音源がほしい」と、ゲームだけでなく周辺の機材まで少しずつそろえていく。新しい音源を手に入れれば、すでに持っているゲームの音楽が、それまでとはまた違って聞こえる。
今から振り返ると、不便なところも多かった時代です。でも、ゲームと一緒に環境そのものをそろえていく楽しさがあり、そういう意味では、なかなか夢のある世界ではあったと思います。
第1回のPSG・FM音源とは何が違う?
ここで第1回との関係を整理しておきましょう。
| 名前 | 何の話? |
|---|---|
| PSG | 矩形波やノイズなどを使って音を作る方法 |
| 波形メモリ音源 | 短い波形を記憶して音を作る方法 |
| FM音源 | 波形を変調して複雑な音色を作る方法 |
| PCM/サンプル音源 | 記録した波形を再生する方法 |
| MIDI | 何を、いつ、どう演奏するかを伝える方法 |
つまり、MIDIとFM音源は競合するものではありません。
MIDIでFM音源を鳴らすこともできますし、PCMを使ったMIDI音源を鳴らすこともできます。
MIDIによる演奏情報
│
├─→ FM音源
│
├─→ PCM音源
│
└─→ 外部シンセサイザー
ゲームの音楽で重要だったのは、演奏情報と、実際に音を作る装置を分けられたことです。
余談:MMLという方法もあった
ここまで見てきたように、MIDIは完成した音声を送るのではなく、演奏情報を音源へ渡して、音源に演奏させる仕組みです。
ただし、同じように演奏情報から音源を鳴らす方法は、MIDIだけではありませんでした。
ゲームやパソコンの音楽では、**MML(Music Macro Language)**という、演奏内容を文字で記述する方法も使われてきました。
MMLは、音源の種類を決めるものではない
SMFは、時間情報を付けたMIDIメッセージを保存するための標準ファイル形式です。つまり、SMFはMIDIを使って演奏することを前提にしています。
一方、MMLはMIDIのような通信規格でも、特定の音源方式でもありません。
MMLが表しているのは、
どの音を、どの長さで、どの順番に鳴らすか
という演奏内容です。
その文字列を、機種やゲームに用意された処理系が読み取り、PSG音源、FM音源、ファミコンの内蔵音源、あるいはMIDI音源など、その環境で使う音源向けの演奏情報へ変換します。
そのため、MMLという考え方自体は、特定の音源に縛られていません。
ただし、実際の書式や使える命令は、機種や処理系、対象となる音源によって異なります。
MMLは、文字を演奏情報へ変換する
MMLでは、音名や音の長さ、テンポなどを文字で並べて、演奏内容を書いていきます。
例えば、多くのMMLでは、
C D E F G A B:音の高さR:休符T:テンポO:オクターブL:音の長さ
といった文字や命令を使います。
処理系は、この文字列を順番に読み取り、実際の音源ドライバが扱える演奏情報へ変換します。
身近なところでは、ファミリーベーシックでもMMLが使われていました。
PLAY 文にMMLの文字列を渡すことで、ファミコンの音源を使って音楽を演奏できます。
例えば、
PLAY "CDEFG"
と書けば、処理系が文字列を解釈し、ファミコンの音源でド・レ・ミ・ファ・ソと演奏します。
ちなみに、僕が初めて触れたプログラミング環境もファミリーベーシックでした。
振り返ってみると、僕にとっては「プログラムを書いてコンピュータから音を鳴らす」という体験の入り口に、すでにMMLがあったことになります。
整理すると、
MMLは、人が文字で書く演奏記述
SMFは、MIDIの演奏情報を保存する標準ファイル
です。
どちらも録音済みの音声そのものではなく、最終的には音源を鳴らすための情報ですが、役割も形式も異なります。
ここでは、この程度の違いが分かれば十分です。
まとめ:MIDIの全盛期は、なぜ長く続かなかったのか
ここまで見ると、MIDIはゲームにとって非常に都合のよい仕組みに見えます。
実際、容量の小さかった時代には、
演奏データだけを持ち、音は音源に作らせる
という方法は非常に合理的でした。
この時代のDTMパッケージについては、ローランド公式サイトにも当時を振り返る資料が残されています。
しかし1990年代、ゲーム機やPCの環境は急速に変わります。
- CD-ROMで大容量のデータを扱えるようになる
- RAMが増える
- PCM音源の性能が上がる
- 録音した楽器や声を扱いやすくなる
- 長い音声をストレージから再生できるようになる
すると、MIDI最大の利点だった**「データが小さい」ことの重要性が少しずつ下がっていきます。**
さらに、ここまでMIDIの魅力として見てきた、
音源を変えると同じゲームでも音が変わる
という特徴も、ゲームメーカー側から見れば、
作曲者が完成させた音を、すべてのユーザーへ同じように届けられない
という弱点になります。
ユーザーには楽しかった「音源による違い」が、時代が進むと制作側には不都合になっていったのです。
ただし、ここからいきなり「全部録音したBGM」へ切り替わったわけではありません。
1990年代には、
短いPCMサンプル + 演奏シーケンス
という、MIDI的な考え方とサンプリング音源を組み合わせた方式も広く使われました。
そして、CD-ROM、大容量メモリ、PCM、圧縮音声、ストリーミングが普及すると、ゲーム音楽の作り方はさらに大きく変わっていきます。
次回は、
- PCMとは何か
- サンプリングとは何か
- CD-ROMで何が変わったのか
- 『Final Fantasy VII』ではどう音楽を鳴らしていたのか
- 『Unreal』のTracker音楽とは何だったのか
- なぜゲーム内でMIDIを直接再生する用途が急速に減っていったのか
を見ていきます。
前回: ← ゲームの音はどう作られていた? ― 専用回路・PSG・FM音源の時代
次回: MIDIはなぜゲームから消えた? ― PCM・ストリーミングと現代ゲームサウンド →
参考資料
本文中の注記・出典
※1 VOGONS Wiki「List of MT-32-compatible computer games」
X68000版『出たな!!ツインビー』がMT-32 / SC-55対応作品として整理されている。技術コミュニティによる二次資料のため、ゲーム画面やマニュアル画像の転載元としては使用しない。
資料を見る
※2 D4エンタープライズ / ファミ通.com「X68000 グラディウスII GOFERの野望 COMPLETE SOUNDTRACKS」関連資料
D4エンタープライズ公式告知で、X68000版にFM音源版、SC-55[MIDI]版、MT-32[MIDI]+FM音源ミックス版の3バージョンが存在することを確認できる。ファミ通.comの記事でも同内容を確認できる。
D4エンタープライズ公式告知を見る
ファミ通.comの記事を見る
※3 日本ファルコム『英雄伝説IV MIDIスペシャル』
日本ファルコム公式サイト。『朱紅い雫』のオリジナルMIDI音源を発展させたMIDI全曲集として1996年に発売されたことを確認できる。
公式資料を見る
※4 日本ファルコム MIDIデータ商品一覧(Vector)
日本ファルコムを作者とする『朱紅い雫・初期版MIDI全曲集(SC-88版)』など、SC-88向けMIDIデータの商品展開を確認できる。
資料を見る
※5 ファミ通.com「『雫』『痕』、そして『ToHeart』。ビジュアルノベルの誕生と繚乱」
PC-98版『雫』のMIDI音源/FM音源選択、LeafがSC-55・SC-88などのGS音源を推奨していたこと、さらにアクアプラス取材時の証言として「まずMIDIで仕上げ、FM音源向けに落とす」制作工程が紹介されている。
記事を見る
※6 Square Enix Support Center - FINAL FANTASY VII [PC] Sound
Yamaha S-YXG70の導入方法に加え、FFVII ConfigurationにGeneral MIDIとXG MIDI Dataの選択肢があり、XG MIDI DataがXG対応サウンドカード向けであることを確認できる。
公式サポートを見る
※7 ASCII.jp「PC版『Final Fantasy VII』にヤマハのXGソフトシンセを搭載、欧米で発売へ」
1998年当時の記事。PC版FFVIIにYamahaのXGフォーマット対応ソフトシンセサイザーS-YXG70が採用されたことを報じている。
当時の記事を見る
※8 『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』PC-9801版 音楽使用場面資料
PC-9801版の音源が「FM3音+SSG3音 / BEEP」で、FM音源ボードを搭載していない機種ではBEEP音で音楽を演奏することが記録されている。
資料を見る
※9 『英雄伝説IV 朱紅い雫』PC-9801版 音楽使用場面資料
PC-9801版がMIDI、FM6音+SSG3音+リズム、FM3音+SSG3音、BEEPという複数の音源環境に対応していたことを確認できる。
資料を見る
※10 Roland「MT-32」「CM-32L」公式資料
Rolandの公式資料で、MT-32が1987年に登場したLA方式の音源モジュールであること、CM-32Lが1989年のLAサウンド・モジュールであることを確認できる。
MT-32の資料を見る
CM-32L取扱説明書を見る
※11 Roland「SOUND Canvas」シリーズ公式資料
SC-55が1991年、SC-88が1994年に発売されたこと、後継機では音色数や同時発音数が拡張されていったことを確認できる。
公式資料を見る
※12 Yamaha「MU80」展示コレクション
MU80が1994年に登場した最初のXG対応マルチティンバー音源であり、32パート・64音同時発音のAWM2音源を搭載していたことを確認できる。
公式資料を見る
※13 KORG「05R/W Quick Guide」
05R/WがAI²音源を搭載し、GM対応音源として使用できることを確認できる。
公式資料を見る
その他の主な参考資料
- Family mruby project:BASIC と MicroPython ― Family BASIC互換PLAY文とMML
- The MIDI Association: MIDI 1.0 Core Specifications
- The MIDI Association: Standard MIDI Files
- The MIDI Association: General MIDI
- The MIDI Association: About MIDI Part 4 – MIDI Files
- Roland:ローランドの歩み
- Roland 50th Anniversary:1980年代
- Roland 50th Anniversary:1990年代
- Yamaha:MUシリーズ ― シンセサイザー50周年
- Yamaha:MU80取扱説明書・XG Format Overview
- KORG 05R/W Quick Guide